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任意後見契約の利用形態について解説します。

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前回は、老後の安心プランとして任意後見契約と委任契約についてお話しました。

今回は、任意後見契約の利用形態について解説します。後半では任意後見人への報酬、任意後見契約の途中解除について解説します。

 

任意後見契約の利用形態について

通常次の3類型があります。委任者(本人)の実情とニーズに応じて最も適切な類型を選ぶことになります。

将来型(しょうらいがた)

将来,本人の判断能力が低下した時点で,はじめて任意後見人による保護を受けようとする典型的な契約形態です。

一般的には,受任者(任意後見人)が家族など身近な者である場合に利用されています。

 

移行型(いこうがた)

本人の判断能力が十分な間は通常の委任契約(「見守り(みまもり)契約」とする場合もある)とし,判断能力が落ちた場合に委任契約を終了させ任意後見契約に移行するものです。

弁護士等の法律専門家が契約に関与する場合は,この方式によるケースが多い傾向にあります。

その理由は,委任契約(あるいは「見守り契約」)の間に本人の生活状況や心身の状態を把握することができるので,「任意後見監督人選任の申立ての時期を的確に把握しやすい」ことにあります。

移行型による場合は,「委任契約(あるいは「見守り契約」)」と「任意後見契約」を同時に締結します。

この場合,1通の公正証書によって作成することが多いですが,2通に分けることもあります。

これまでの公証人の経験を踏まえると,最近では,この移行型による「委任契約及び任意後見契約公正証書」を締結するケースが増えてきています。

なお,「委任契約と任意後見契約」の両方に,受任者(任意後見人)の義務として,的確な時期に任意後見監督人の選任の請求をする旨の条文が挿入されます。

その条文の例は次のとおりです。

第○条 委任契約(又は任意後見契約)締結後,委任者が精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況になったときは,受任者は,速やかに,家庭裁判所に対し,任意後見監督人の選任の請求をしなければならない。

 

即効型(そっこうがた)

任意後見契約を締結した後に,直ちに任意後見監督人の選任の申立てをして任意後見契約の効力を発生させるタイプのもので,早期に発効させたい場合に利用されるものです。

しかし,判断能力が不十分であるから任意後見契約を発行させることにかんがみると,「任意後見契約を締結したときに,契約内容を理解する十分な判断能力があったのかどうかが問題となるおそれがある」ことから,この即効型を利用するケースは少ないと思われます。

 

任意後見制度を利用した事例について

具体的事例(法務省のホームページ参照)は以下のとおりです。この事例により任意後見制度のことを十分に理解してください。

任意後見監督人選任事例

本人(父)の状況:認知症の症状,任意後見人:長男,任意後見監督人:弁護士

概要

本人は長年にわたって自己所有のアパートの管理をしていたが,判断能力が低下した場合に備えて,長男との間で任意後見契約を公正証書で締結した。

(任意後見法3条。上記の将来型の類型)。その数か月後,本人は脳梗塞で倒れ,左半身がマヒするとともに,認知症の症状が現れアパートを所有・管理していることさえ忘れてしまっていたので,任意後見契約の受任者である長男が家庭裁判所に任意後見監督人選任の審判の申立てをした。

家庭裁判所の審理を経て,「弁護士が任意後見監督人に選任」された(任意後見法4条)。

その結果,「長男が任意後見人」としてアパート管理を含む本人の財産管理,身上監護(介護や生活面の手配など)に関する事務を行い,これらの事務が適正に行われているかどうかを任意後見監督人に選任された弁護士が定期的に監督するようになった(任意後見法7条)。

受任者(任意後見人)には,報酬を支払うのですか?

受任者(任意後見人)の報酬は,任意後見契約において支払額や支払い方法を取り決めない限りは無報酬です(民法648条参照)。

通常,受任者(任意後見人)が親族など身内の場合については,無報酬とするケースがほとんどです。

受任者(任意後見人)を第三者(例えば,弁護士・司法書士等の専門家)とした場合は,通常,任意後見契約において取り決めた報酬額(注)を支払っています。

一般的な報酬額は1か月3万円程度ですが,これに書類作成料や出張料などが加算される場合もあり, 1か月3万円を超えるケースも多々あります。

 

 任意後見契約を,途中で解除することはできますか?

任意後見監督人が選任される前

公証人の認証を受けた書面(例えば,公証人の面前において委任者と受任者が作成した「任意後見契約の合意解除書」)によりいつでも解除することができます(任意後見法9条1項)。

 

任意後見監督人が選任された後

正当な理由がある場合(例えば,委任者と受任者の信頼関係が損(そこ)なわれた場合や受任者が病気で支援できなくなった場合など)に限り,家庭裁判所の許可を得て解除することができます(任意後見法9条2項)。

 

以上,成年後見制度に関する基本的事項を6回にわたって説明してきました。

今後,皆様方の中で,法定後見,任意後見などに関わる機会がありましたら,これまでの説明を参考に対応していただければ幸いです。