今回は,自筆証書遺言の方式緩和について順を追って,解説いたします。
これまでの自筆証書遺言について
自筆証書遺言については,遺言者の死後,遺言書の保管者や発見者がこれを家庭裁判所に差し出して検認を受けなければなりません(民法1007条第1項)。
この検認手続は,相続人に「遺言書があること」や「遺言書の内容を知らせること」に加えて,遺言書の形状,日付,署名等遺言書の現状を詳細に確認して証拠保全(しょうこほぜん)をするものです。
したがって,検認はあくまでも証拠保全をするのが目的であって,遺言書の有効・無効を判断するものではないので注意を要します。
自筆証書遺言は,遺言者の死後,裁判所に持っていき,検認を受けなければならない
ただし,令和2年7月スタートの制度により,法務局に自筆証書遺言を預けたものについては検認がいりません
また,自筆証書遺言は,その保管方法が定められていないことから,遺言者が適宜な方法により保管(自分で保管,相続人等他人に預けるなど)するので,発見されなかったり,紛失したり,偽造や変造(内容を書き直すなど)されたりするおそれがあります。
2回にわたって自筆証書遺言についてお話しましたが,自筆証書遺言は「遺言全文を自筆しなければならないなど」遺言の方式が厳しいこと,「遺言書を紛失するおそれがあるなど」保管方法にも問題があることなどいろいろな難点があります。
法務局における遺言書保管制度の創設
自筆証書遺言は,これまで十分に活用されていないのが現状でした。そこで,上記の難点や問題点を解決して,遺言の利用を促進し,相続をめぐる紛争を防止する観点などから,2018年7月に相続法制の見直しを内容とする法改正が行われ,自筆証書遺言の方式が緩和されました。
そして,法務局における保管制度が創設されました(自筆証書遺言の保管制度については次回で解説)。その詳細については,法務省のホームページに記載されていますが,これらを整理して,概要を説明していきます。
自筆証書遺言の方式緩和について
最初に自筆証書遺言の方式緩和について説明します。
自筆証書遺言を作成する場合には全文自筆する必要がありました。今回の法改正で自筆証書遺言についても,財産目録については手書きで作成する必要がなくなり,遺言作成者の負担が軽減されました(民法968第2項…2019年1月13日から施行されている)。
具体的には,パソコンで財産目録を作成すること,不動産の登記事項証明書や預貯金の通帳口座のコピーを添付して財産目録とするなどの方法があると思います。
なお,これらの財産目録には,偽造・変造を防止するため,遺言者の署名・押印が必要になりますから注意してください。
以上のように全文自筆の要件が緩和されたことから,字がうまく書けない人や全文の手書きに負担が重い高齢者などには自筆証書遺言が作成しやすくなりました。
次回は自筆証書遺言の保管制度について解説していきます。